最高裁判所第三小法廷 昭和55年(オ)606号 判決 1980年9月30日
上告人
圓尾豊一
右訴訟代理人
山平一彦
被上告人
井上周治
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人山平一彦の上告理由について
原審の確定した事実関係のもとにおいて、上告人と被上告人との間に成立した本件土地売買契約につき民法四〇六条以下の規定を適用した原審の判断は、正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(横井大三 環昌一 伊藤正己 寺田治郎)
<参照>
【原判決理由】
(大阪高裁昭四九(ネ)第一五四九号、所有権移転登記手続請求、土地引渡請求事件、昭55.3.19判決)
一<証拠>を綜合すると、兵庫県揖保郡御津町釜屋字北浜新田四八〇番一田参畝一〇歩は訴外高橋善治の所有であつたところ、昭和三五年一〇月頃控訴人がこれを買受け、同月一七日そのうち西側半分の五〇坪を被控訴人に売却して右代金三〇万円を受取つたこと、その後控訴人は農地法上の許可をえて昭和三六年九月一一日付で高橋から四八〇番一の所有権移転登記を受け、昭和三七年三月頃被控訴人と協議のうえ右土地全部を埋立て宅地として、同月二八日地目変更の登記がなされたこと、控訴人と被控訴人はその後も共同で別の土地を購入したりし、四八〇番一についてもともに取りたてて使用することがなく空地のままにしていたことが認められる。前掲控訴人の供述中、控訴人が高橋から買受けた代金は一〇〇万円で、被控訴人から受取つた三〇万円は借受金であるとの部分は、前掲証人乗鞍良治の証言から当時の右土地の価格は坪五〇〇〇円程度と思われること、控訴人提出の乙第五号証は前掲控訴人の供述によつてもその作成の時期目的が明確でなく、作成者も高橋本人か否か判然としないなど疑問の点があつてたやすく採用できないこと、更に前出甲第一号証に土地代金と明記されていることなどに照らして直ちに措信し難く、その他当審証人乗鞍良治の証言、前掲控訴人の供述中以上認定に反する部分はその余の冒頭掲記の各証拠に照して採用できず、右控訴人の供述により成立を認めうる乙第二ないし第四号証、成立に争いのない同第六号証、右乗鞍証言により成立を認めうる同第一一号証もいまだ認定を覆えすことはできず、他にこれを動かに足る十分な証拠がない。
二<証拠>を綜合すると、被控訴人は昭和四五年一〇月控訴人に対し前記五〇坪の所有権移転登記をするよう求めたが、控訴人がこれに応じなかつたので、昭和四六年三月一九日処分禁止の仮処分決定を得、控訴人に代位して四八〇番一から西側四八〇番四宅地165.31平方メートルを分筆する登記手続をしたこと、その後昭和五二年九月一三日控訴人に対し一週間以内に右五〇坪を特定するよう催告したがこれがなされなかつたので、被控訴人は民法四〇八条の選択権を行使して同月二四日控訴人に対し、右五〇坪を別紙図面の斜線部分159.64平方メートルと特定し、不足部分は放棄する旨通知したこと、四八〇番一及び四八〇番四の形状は別紙のとおりであつて、分筆前の四八〇番一の実測面積は331.19平方メートルであることが認められる(以上仮処分決定の点は当事者間に争いがない)。当審証人井田博仁の証言中右認定に反する部分及び右証言により成立を認めうる乙第八号証は、前掲各証拠及び弁論の全趣旨から成立を認めうる甲第一八号証に照らして採用できない。
三以上認定の事実によれば、被控訴人は農地法所定の許可を条件として控訴人から四八〇番一田一〇〇坪の西側半分五〇坪を買受けたもので、右契約はその給付の内容を確定しうるに十分なものであるところ、その後の地目変更により完全に効力を生じ、更に売買範囲の特定によつて、別紙斜線部分の所有権は前記発効時に遡つて被控訴人に帰属したものというべきである。<以下省略>
上告代理人山平一彦の上告理由
一、原判決は、民法第四〇六条の解釈を誤り、かつ同条に関する最高裁判所昭和四〇年(オ)第二七八号事件同四二年二月二三日第一小法廷判決(民集二一巻一八九頁以下)の判旨に違背した違法がある。以下に理由を述べる。
二、本件はもともと土地の登記手続と明渡を求める訴訟であるから、土地の範囲の特定は必要不可欠である。ところが被上告人が本件関係仮処分において債権者代位によつてなした分筆登記は恣意的であることを免れず、この点控訴審の最終段階まで被上告人の論旨は明快でなかつた。そこで被上告人は窮余の策として控訴審の最終段階において土地の範囲の特定のために民法第四〇六条に基き同第四〇八条の手続をとつたもので、原判決はこれをそのまま認めている。しかし民法第四〇六条につき関係がある前記最高裁判決の要旨は次のとおりである。土地の一部を目的とする取引において、取引の趣旨に適した場所が相当数あるときは、これを特定するについて民法第四〇六条の適用がある。以上のとおりである。
本件の場合はこれとは全く情況が異り、何も広い土地の内、数ケ所のどの部分かを特定する場合ではない。もともと土地の境界が明らかでない場合にあたる。よつて原判決はこのことを前提として判断すべきところを前記のとおり判断したものであつて前示第一項の如き結論を免れないと信ずる。
三、ちなみに本件のような場合、原判決認定のように売買契約の成立に妨げがないとすれば、被上告人が境界確定訴訟でもするというなら格別のこと、被上告人の前記手続をそのまま認容する原判決の判断には論理の飛躍があるというべきである。